蜀江（しょっこう）

中国、四川省の蜀（しょく）を流れる川の流域、成都周辺では
良質で貴重な絹を使った織物「蜀錦（しょっきん）」が古くから生産されていました。
奈良・法隆寺に伝わる絹織物のなかにも蜀江錦と呼ばれるものが伝来しています。
日本へは主に室町時代になって、多くもたらされ、「蜀江錦（しょっこうのにしき）」と呼ばれていました。
絹は金と同じように高価なもので、蜀江の錦は貴族の正装として用いられました。
蜀江錦の特徴は織り技の精緻さと、文様の多様性ですが、特に赤の色が美しいことです。
これは四川省一帯で良質な紅花が栽培されたからだといわれています。
文様では八角形と四角をつないだ基本形（例外はあります）が特に好まれました。
その四角、八角の中に雲龍、鳳凰、唐花、宝尽くしなどさまざまな吉祥の絵柄を組み入れています。
大変応用のできる文様ということもあって現在でも多く見られます。

能では「翁」役だけが蜀江錦の狩衣（かりぎぬ）を専用しています。
最も壮麗で貴重な蜀江錦は将軍からの拝領であったゆえと思われます。
後に、茶器の仕覆などに用いられ品格の高い文様「名物裂」のひとつになっています。

江戸時代には蜀江に限らず、高価な絹織物は、とても庶民には手の届かぬもの、
ましてや贅沢禁止令が頻繁に出ていたので蜀江錦など、ほとんど目にすることもできません。
そこで、型染めなどで、その文様に少しでもあやかりたいと、さまざまな「染めの蜀江文様」が考案されました。
基本の四角と八角形の中に花柄や他の幾何学紋様を組み込めば、好みの蜀江文様風の趣になります。
せめて、高価な絹織物の雰囲気だけでもと工夫を凝らしました。
後に、あまりの人気ゆえ、本来の精緻な織物というイメージからはほど遠い型染め文様が多く出回ることになってしまいました。

浮世絵の女性の帯にも見られます。

花蜀江	花蜀江	花蜀江
四角と八角の枠中には何を入れても良いのですが、花柄が多いようです。

花蜀江	花蜀江	花蜀江

花鳥に雲に雨龍入り変わり蜀江

吉祥の意味合いのアイテムを、蜀江文様の変形に入れ込んだパターン。

模倣も最初の頃は元の形にに少しでも近づけたいという思いがあるのですが、
時がたつにつれて、手軽な文様に変化し、技術的にもレベルが落ちてしまうのは残念です。
それだけ普及したということにもなりますが。

11 June 2014

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