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		 実りの秋 
		
		五穀豊穣実りの秋。半年から1年余りの苦労の結果が報われる季節です。 
		一方で、子どもの頃、暑い夏の日に川遊びの帰り道、近くの畑から失敬して食べた生暖かいキュウリや、トマトの味も忘れられません。 
		しかし、最近は一年中作物ができるので、食べ物から季節を感じることがなくなってしまいました。 
		人間の知恵の結集は自然をも力ずくで替えることができるような錯覚まで覚えますが、 
		自然からのしっぺ返しが恐ろしい気もします。
		 
		五穀豊穣 
		  
		
		稲穂と収穫に使う道具の組み合わせ文様です。 
		今では姿を消してしまった、升、箕(み)、大小の鎌を組み合わせて今年の豊作を祈願します。 
		束ねられた稲束は豊かな実りの象徴でもあります。 
		升のみの文様もあり、これも豊穣の象徴として使われたアイテムです。このように、日常生活の道具までもが文様になりました。
  
		 
		
		江戸時代の経済の中心は年貢として納められたお米でしょう。 
		石高を増やすためにそれぞれの領地では新田開発が盛んに行われました。 
		現在でも住所に「新田」という名称が付いたところが多く残っていますが、江戸時代からの名称でしょう。 
		江戸時代は自給率が100%だといわれますが、米を生産している農家が裕福な暮らしをしていたという話は聞きません。 
		さらに、現在の自給率はおよそ40%、この国はどうなるのか、大変気になります。 
		江戸時代の人たちの「稲作」を型染文様の中からいくつか紹介しましょう。
		 
		田植え 
		  
		
		この図柄は「田植え始め」の神事をする様子だと思います。 
		田は神が降臨する場所ということで、田植え祭りは身を清め、晴れ着に新しい菅笠をかぶった早乙女が行います。 
		この図は田植えをする人が前後にいますが、実際には1列に横に並び、このようなことにはなりません。 
		これは「異時同図法」といって時間の差をひとつの画面にまとめたものです。
		 
		粟に鳴子 
		  
		
		粟はヒエとともに江戸時代には重要な食料でした。「鳴子」は田畑の作物をねらう鳥を追い払う用具です。 
		ひもを引くと山形の板に付けた細い竹筒がガラガラと音を鳴らし、雀などの鳥が逃げ出すという仕掛けです。 
		素朴な雀おどしですが、現代では郷愁を誘う秋の風景文様です。
		 
		稲に雀 
		  
		
		豊作を願って、文様の中では雀の数も多くなるという、ほほえましい文様です。 実りの秋を喜ぶ風物詩的な文様です。
		 
		米俵 
		  
		
		なんと、はち切れそうな大量な米俵でしょう。まさに豊作祈願の文様です。 
		人々の願いを込めた文様は、多くの人に共感を持たれました。
		 
		
		 米作とは関係ありませんが、実りの秋なので栗の文様もひとつ加えておきましょう。
		 
		毬栗(いがぐり) 
		  
		
		栗の実が熟してくると、イガが割れて中からツヤツヤの実が顔を出します。 
		ほっこりとした素朴な甘みには子どもの頃の懐かしい想いが重なります。 
		栗の実が熟すのが待ちきれず、まだ青いイガを鎌で割って栗を取り出し食べたら、あまりの苦さに吐き出しました。 
		山に行けばアケビがあり、キノコもあり、柿も赤く色づき、秋の里山は実りの宝庫です。
		 
		24 October 2012 
		*このページに掲載されたコンテンツは熊谷博人に帰属します 
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