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		 江戸のガーデニングブーム 
		菊人形 
		
		イギリスの植物学者であり、プラントハンターであったロバート・フォーチュンは、 
		1859年に日本が開港される情報を得て、万延元年(1860)の秋に長崎に上陸しました。 
		その後、瀬戸内海を通過し、神奈川に入ります。そして、神奈川居留地の近郊を歩いた帰路、散在する農家に立ち寄ると、 
		どの家もささやかではあるが、庭先に見事な菊の花が咲き誇っているのを見て感激したそうです。 
		フォーチュンは著書『江戸と北京』の中で、日本人はどの階層の人たちも皆生来の花好きであり、 
		それはイギリス人よりも優れ、文化の度合いが高いというような内容のことを書いています。 
		花の美しさは花そのものにありますが、その美しさを強く感じることのできるのは、 愛情を持って植物を育てることから生まれてくる感性でしょう。 
		江戸に行った時には、根津に近い団子坂の茶店で数千の菊の花を使って作られた菊人形の作り物を見て驚嘆し、 
		浅草寺の境内では新種の菊を数種類見つけたので、ヨーロッパに紹介したいとか、 
		向島の大庭園はひときわ美しい絵のようだともフォーチュンは書いています。
  
		また、オランダ商館付きのドイツ人医師シーボルトも日本の素晴らしい園芸を知って12000の植物標本などを持ち帰り、 
		やがてヨーロッパの園芸に影響を与えました。このように江戸時代の園芸はヨーロッパ人も驚くほど隆盛を極めていました。 
		もちろん、日本人はそれ以前から花が好きで古くから園芸を始めています。
  
		花や木を育てるのは貧富や身分の差に関係なく、容易に楽しめ、しかも日本では四季折々に変化に富んだ花を楽しめます。 
		比較的平穏な時代が続いた江戸時代には、身分の高い大名から武士、そして下町に暮らす町衆や農民に至るまで、 
		花や緑を育てることをそれぞれに愉しみました。現代のガーデニングブームよりも、もっと盛んであったとも言われます。 
		特に狭い土地でも愉しめる「鉢物」は大流行しました。 
		品種改良が比較的やりやすいツツジ、朝顔、菊などが特に好まれ、 珍しい品種の鉢物は投機や利殖の対象になり、高価な値段で取引されました。 
		高額な鉢植えには、幕府から売買の禁止令が出ましたが、いつの時代でも大流行の陰にはこういうことを考える輩が現れるものです。 
		それでもこのブームは収まることを知らなかったようでした。
		 
		  
		江戸名所図絵 
		
		添え書きに、「江戸郊外葛西あたりの農家の裏庭やあぜ道、畑には四季の花を植え、 開花の時には大江戸の花屋に売り出した」とあります。
		 
		菊庇(きくひさし) 
		  
		
		観賞用に栽培している菊に、直接太陽が当たらないように日除けをしている文様です。
  
		最初は中国から薬用として日本にもたらされた菊ですが、 
		江戸時代になると町衆の間で花の美しさを競う「菊合わせ」という品評会が催されるようになり、 
		大輪の菊から小菊まで、競い合って品種改良を愉しみました。 
		文化年間(1804年~)になると、特に麻布狸穴や巣鴨染井の植木職人たちの作る菊人形、帆掛け船、五重塔など、 
		菊の細工物が大人気で、評判を聞いて多くの人たちが集まり大賑やかだったそうです。 
		菊はこのように日本人の心を虜にするほどの花になっていきました。 
		当然、菊の文様も人気があり様々に考案されました。
		 
		菊小花 
		  
		乱菊 
		  
		狢菊(むじなぎく) 
		  
		
		菊の花弁がムジナ(穴熊の別称)の毛並みのように見えるところから、このような名称が付けられました。
		 
		小菊蝶 
		  
		  
		小菊蝶の拡大図 
		
		拡大図の色分けで解るように菊の花が蝶の胴体になり、そこに触覚や羽根がついています。 
		でも、こんな風に文様を考案してもほとんどの人には解らなかったでしょう。 職人だけが密かに愉しんだ、職人なりの粋な文様といえます。
		 
		菊尽くし 
		  
		
		様々な菊の組み合わせ文様です。
		 
		19 September 2012 
		*このページに掲載されたコンテンツは熊谷博人に帰属します 
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